仙台高等裁判所秋田支部 昭和27年(ネ)31号・昭27年(ネ)32号・昭27年(ネ)30号 判決
第一審原告(以下単に原告と略称する)訴訟代理人は、「原判決中原告敗訴の部分を取消す。第一審被告弁天村長(以下単に被告甲と略称する)が原告に対し昭和二十四年四月八日なした同年度産米供出割当に関する農業計画及び同年七月二十七日なした同年度産米供出割当に関する農業計画の指示はいずれも無効なることを確認する。第一審被告秋田県知事以下単に被告乙と略称する)が昭和二十五年一月二十一日為した秋田県告示第十八号は原告に対しては無効なることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被告等の負担とする。被告等の各控訴はこれを棄却する。」との判決を求め、被告甲訴訟代理人及び被告乙指定代理人はそれぞれ「原判決中当該被告敗訴部分を取消す。原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共原告の負担とする。原告の控訴はこれを棄却する。」との判決を求めた。
当事者雙方事実上の陳述はいずれも原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。(各証拠省略)
三、理 由
原告が被告甲主張の如く、当初昭和二十四年四月八日被告甲のなした同年度産米供出事前割当農業計画の無効確認を求め、後に至つて右請求を維持しながら同年七月二十七日被告甲のなした農業計画指示の無効なることの確認をも追加的に求めることは、一件記録上明らかであるが該請求は、いずれも被告甲の為した同年度産米の供出割当に関する一連の行政行為における手続上の欠陥を原因とするものであり、且つその追加的変更の結果被告甲が応訴に特段なる不利益を被るに至るべき事情も認め難いので、請求の基礎に変更ありと為すことを得ないのみならず、右追加的変更の結果訴訟が著しく遅延する虞れがあるともいい難いので、右訴の追加的変更は許さるべきものである。これと異る所見に立つ被告甲の本案前の抗弁はその理由がない。
よつて進んで原告の被告甲に対する本案請求につき審案するに、成立に争のない甲第七号証、乙第一、二号証の各一、二、乙第八号証、乙第九号証の一、二、乙第十号証、乙第十一号証の一、二、乙第十二号証乙第十三号証の一、二、原審証人大山文一郎、同渡辺源吉、同松田大太郎、同阿部竜太郎の各証言、当審における被告甲本人訊問の結果を綜合すれば、昭和二十三年十二月三十日、弁天村農業調整委員会生産者代表が全村に亘つて作付不能地を調査し、翌二十四年二月上旬生産者より作付反別の申告を受けたが、これによつては確実なところを把握し得なかつたので、同年同月二十六日、同村農業調整委員会書記と村役場書記との二名で一筆調査を為し、その結果に基いて各生産者につき反別と人口の誤差を調査し、生産者の意見を徴し、右資料によつて同年四月八日同村農業調整委員会の議決を経て決定し、翌九日から十日間同村役場の掲示板に公表し爾後この農業計画に基いて右供出手続が進められたこと、原告は右各調査において意見を開陳し自己の米穀生産に関する実情を関係者に認識せしめ得る機会を与えられたこと、原告に対する右農業計画による供出割当は他の生産者との比較において公正妥当なものであること、及び、右農業計画はその後撤回された事実のないことが認められる。甲第六号証、原審並当審証人石山音吉、原審証人大山文一郎の各証言及び原審における原告本人訊問の結果中右認定に抵触する部分は前掲各証拠に照し信用し難いものと認める。他に右認定を覆し原告の主張を肯認するに足る証拠はない。抑々米穀生産者に対する供出割当農業計画の樹立は生産者の民主主義思想に立脚しその自覚と反省により適正且公正ならしめることを目的とする食糧確保臨時措置法(以下単に食確法と略記する)の精神に従つて為さるべきは当然で、各生産者の具体的供出義務の範囲を決定するに当つては、同法第五条以下の規定を遵守しなければならないことは言を俟たないが、一面主要食糧の確保は国民総ての生活に重大な影響のある事柄であり、且つ前記食確法に基く調査は甚だ繁瑣且つ困難な事柄であるから各生産者は宜しく供出割当農業計画に先行する各調査に際し、民主的に協力的態度をとり能う限りの便益を提供することが期待されねばならぬ。若し夫れ生産者において右協力の労を惜しみ乃至はこれを妨害するが如き態度に出でながら樹立された農業計画の事前調査に手続上の欠陥のあつたことを指摘し、これを非難するが如きは食確法の法意からも信義則の原則からも許すべからざる事といわねばならぬ。本件においてこれを見るに前記各証拠を綜合すれば前記農業計画の樹立に関し原告が協力的でなかつたことを看取するに十分であるから、前段認定の程度に於て調査が為され、この調査に際し原告が自己の権益を主張する機会を与えられて居り、且つ出来上つた農業計画が公正妥当であることが肯認される限り、右農業計画の無効確認を求める原告の請求は到底失当として棄却を免れない。
次に原告において右農業計画に対し異議の申立をしなかつたのに被告甲が昭和二十四年七月二十七日原告の供出割当数量七十五石八斗一升を七十九石六斗七升と変更(増加)して原告に対しその指示を為した事実は当事者間に争のないところであるが、食確法第七条第一項の規定によると、異議申立をした生産者に対しては同法第六条第二項により村長は村農業調整委員会の議決を経て決定し、その決定に基いた農業計画を指示しなければならないが異議申立をしない生産者に対しては当初樹てられた農業計画を指示しなければならないことは明かであるから、被告甲の原告に対する前記指示は前記四月八日の農業計画を超過する部分に関する限り違法で従つて無効であるといわねばならないが、その余の部分は右同年四月八日の農業計画に対する指示として有効であると解すべきである。蓋し右同年四月八日の農業計画が公表せられたことは前示のとおりであつて、その後十日を経過した同年四月十九日以後においては該農業計画に係る生産者は該農業計画に対し異議申立権を喪失するものであり、且つ、該指示の時期も後記の如く供出を著しく困難ならしめる程度に遅滞したとも為し難く、従つて右指示の転換を認めてもそれにより原告に不当に不利益を被らしめる虞はないからである。然らば前記同年七月二十七日の指示は前記七十五石八斗一升の限度において有効であると断ずべく、右指示に対する生産者の異議申立は食確法の認めないところであるから、被告甲が原告の右指示に対する異議申立につき何等の決定をしなかつたからとして違法とされる理由もなく、又、右指示が日附を遡及し同年五月二十日附を以つて為された事実は成立に争のない甲第三号証の三及び本件口頭弁論の全趣旨により肯認し得るところであるが、右指示が同年七月二十七日為されたことは前示のとおりであつて、該指示が供出を著しく困難ならしめる程度に遅滞した事実の認め難い本件においては、指示書の日時を遡及して記載した事実があつたからとて、該指示の効力に消長を来すべき理由は毫末もないので、これらの原告主張はいずれもその理由がない。
以上判示のとおり原告は昭和二十四年度産米につき七十五石八斗一升の供出義務を負担するに至つたというべきところ、右指示後被告乙から災害減収について減少指示があつたことは当事者間に争なく、該減少指示に基き原告に対し施さるべき減少数量が被告甲主張どおり二石八斗六升となることは原告の明かに争わないところであるから、これを控除した七十二石九斗五升の限度において前示七月二十七日の指示は有効で、これを超過する部分は無効であるといわねばならぬ。されば原告の被告甲に対する請求は右無効部分に関する限度においてその理由ありその余は失当として棄却を免れない。
よつて更に進んで原告の被告乙に対する請求につき審案するに、被告乙の昭和二十五年一月二十一日秋田県告示第十八号を以つて為した原告に対するその昭和二十四年度産米を政府に売渡すべき旨の告示は被告甲の通告に基いてなされたものであることは当事者間に争のないところであるが、被告甲の原告に対する供出指示は前記認定のとおり七十二石九斗五升を超える部分は無効であるから、被告乙の右告示が食確法第七条第四項の規定に基くものであるとの主張立証のない本件においては右告示についても七十二石九斗五升を超える部分については無効であるといわねばならない。されば原告の被告乙に対する請求は右無効部分に関する限度においてその理由あり、その余は失当として棄却を免れない。
然らば右と同趣旨の原判決は相当で本件控訴はいずれもその理由がない。よつてこれを棄却すべきものとし訴訟費用につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 豊川博雅 西田賢次郎 浜辺信義)